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ナイトロックス(エンリッチド・エア)は、世界中のダイブリゾートで広く使用されている標準的な呼吸ガスです。日本国内では依然として空気が主流ですが、近年では九州、沖縄本島、石垣島、宮古島、小笠原・父島、伊豆IOP、伊豆諸島など、各地でナイトロックスの利用が可能になってきました。
減圧症のリスク低減に対して、科学的に効果が認められている唯一のガスであるにもかかわらず、日本での普及が緩やかである背景には、高圧ガス保安法による規制や、販売価格の高さといった課題が存在します。
アーバンスポーツでは、ガスの製造・販売に関する正式な許可を取得し、2010年には国内でも先駆けてメンブレン方式によるナイトロックス製造システムを導入しました。お客様の安全を最優先に考え、ナイトロックスシリンダーを空気と同一料金で提供し、追加料金なしで安心してご利用いただける環境を整えています。 |
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🧪 ナイトロックスとは?酸素と窒素のバランスで変わる呼吸ガス
ナイトロックス(Nitrox)とは、酸素(O₂)と窒素(N₂)を混合した呼吸ガスの総称です。略記では「EAN(Enriched Air Nitrox)」や「Nx」と表記され、その後ろに**酸素の混合割合(%)**が付け加えられます。たとえば、酸素が32%含まれている場合は、EAN32またはNx32と表記されます。
🌬️ 空気もナイトロックスの一種?
意外に思われるかもしれませんが、酸素21%・窒素79%の通常の空気も、広義ではナイトロックスの一種です。仮に酸素21%の混合ガスを意図的に製造した場合、EAN21やNx21と表記され、その成分はほぼ空気と同じになります。このように、EAN21を基準として、それより酸素濃度が高いものを「エンリッチド(豊富な)」と呼ぶのです。

🔍 空気との違い:酸素が多く、窒素が少ないナイトロックス(EAN32やEAN36など)は、空気よりも酸素の割合が多く、窒素の割合が少ないという特徴があります。この違いが、以下のようなメリットにつながります:
• ✅ 減圧症リスクの軽減(窒素の蓄積が少ない)
• ✅ より長いNDL時間(無減圧停止限界)
• ✅ 複数回潜水時の安全性向上
🧠 結論:ナイトロックスは「酸素の豊かさ」で選ぶ安全な選択肢
ナイトロックスは、単なるガスの名前ではなく、ダイバーの安全性と快適性を高めるための選択肢です。「空気もナイトロックスの一種」という視点を持つことで、EAN32やEAN36の意味がより明確に理解できるようになります。
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🫁 呼吸効率の低下と酸素濃度の関係
長距離ランニングなど、激しい運動をしたときに呼吸が速く浅くなる経験はありませんか?また、意識を失った人に救急隊員が酸素を与える場面や、病室で酸素マスクを使用しているシーンを見たことがある方も多いでしょう。これらの例からもわかるように、人間にとって酸素濃度の高い空気は、非常に有効なサポートになります。
🌊 ダイビング中の呼吸と酸素摂取量
人は安静時、陸上でも水中でも1分間に12〜20回の呼吸をしています。激しく動くと、この回数はさらに増加します。この呼吸数の増加は、1回の呼吸で取り込める酸素量が足りないために起こる自然な反応です。通常の空気中の酸素濃度は約21%。仮に1分間に5リットルの空気を呼吸した場合、摂取できる酸素量は約1リットルです。しかし、EAN36(酸素濃度36%)を使用すれば、同じ5リットルの呼吸で約1.8リットルの酸素を取り込むことができます。
✅ 結論:酸素濃度が高いほど、呼吸効率を補える
呼吸が浅く・速くなる状況では、酸素濃度の高いガスを使うことで、1回の呼吸あたりの酸素摂取量を増やすことができるため、呼吸や身体の動きが楽になることが期待されます。これは、ダイビング中の安全性や快適性を高める上で、非常に重要なポイントです。 |
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🧠 減圧停止不要限界(NDL)と酸素濃度の関係
SSIやPADIなど、世界的に認知されたダイビング認定機関では、減圧症を防ぐために**ダイブテーブルやダイブコンピューターを用いて、減圧停止不要限界(NDL:
No Decompression Limit)**を教えています。このNDLを守ることは、安全ダイビングの絶対ルールです。
📊 空気(AIR)でのNDL時間とリスク
たとえば、水深24mでの無減圧停止時間(NDL)は、空気(AIR)使用時で約29分とされています。
では、27分のダイビングは減圧停止不要と言えるのでしょうか?実際には、ダイバーの年齢、体質、体調、疲労、冷え、脱水などの誘因要素によって、同じNDL内でも減圧症のリスクが高まる可能性があります。つまり、理論上はセーフでも、実際にはアウトになるケースがあるということです。
🧪 EAN32使用時の安全性
このような状況で、EAN32(酸素濃度32%)を使用していた場合、同じ水深24mでのNDL時間は約50分に延長されます。つまり、27分のダイビングはNDLの半分程度にすぎず、非常に安全な範囲に収まるのです。
✅ 結論:窒素が少ないことのメリット
EAN(Enriched Air Nitrox)を使用することで、体内に蓄積される窒素量が減り、減圧症のリスクを大幅に軽減できます。これは、特に複数回潜水や深場での活動があるダイバーにとって、大きなメリットです。 |
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🧠 ダイブコンピュータの進化と安全性の再定義
1970年代に登場したダイブコンピュータは、スマートフォンに例えるなら第5世代、第6世代へと進化を遂げています(2024年現在)。初期のモデルは、紙のダイブテーブルを単にデジタル化しただけのものでした。しかし現在では、以下のような高度な機能を備えた安全支援ツールへと進化しています。
🫁 呼吸量とガス管理:SACレートによるリアルタイム判断
最新のダイブコンピュータは、SACレート(Surface Air Consumption Rate:1分間の呼吸ガス使用量)をリアルタイムで計算し、残圧から水面まで安全に戻れるかどうかを判断するガス管理モデルを搭載しています。これにより、NDL(無減圧停止限界)だけでなく、実際のガス残量に基づいた安全判断が可能になりました。
⚙️ G/F(グラディエントファクター)の自由設定と個別最適化
従来のダイブコンピュータは、メーカーが**固定のG/F値(グラディエントファクター)**を設定していました。これは、減圧アルゴリズムの保守性を決めるパラメータであり、減圧症リスクをどこまで許容するかを定義するものです。しかし、最新モデルでは、ダイバー自身が安全マージンを考慮し、G/F値を自由に設定できるようになっています。これにより、個々の体調やダイビングスタイルに応じた減圧戦略が可能となり、より柔軟でパーソナライズされた安全管理が実現しています。
🧬 ドップラーリミッテド:目に見えないリスクへの対応 さらに、減圧症リスクの研究では、「ドップラーリミッテド(Doppler Limited)」という概念が注目されています。これは、**ドップラー超音波で検出される微細な気泡(ベニグン・バブル)**の存在を基準に、減圧症が発症する前の“見えない兆候”を制限因子として捉える考え方です。最新の減圧モデルやG/F設定は、このドップラーリミッテドの知見を踏まえ、「気泡が出ない範囲での浮上」を目指す設計思想へとシフトしています。
✅ 結論:ダイブコンピュータは「命を守る思考ツール」へ
ダイブコンピュータは、単なる計算機ではなく、ダイバーの判断力と安全意識を支える思考ツールへと進化しています。呼吸量、残圧、浮上速度、G/F設定、そしてドップラーリミッテドの視点。これらを統合することで、より深く、より安全に、そしてより自由に海と向き合える時代が来ています。 |